ほの昏い夜の果て 2
「悟浄、最近付き合い良くなったじゃん」
 酒場で、そう声を掛けられて悟浄は肩を竦めた。
「何言ってんだよ。俺は変わってないっつーの。李厘ちゃん達が声を掛けてくれなかっただけだろーが」
「良く言うね、調子良いから」
 李厘は褐色に光る肌を酒場の明かりに薄っすらと光らせて笑った。
「最近2時間位でさっさと出ちゃってたじゃない。ご休憩じゃないんだからそんなピッタリに出なくったってねー、八百爾」
「…李厘…」
 シモネタに綺麗な顔を少し強張らせて、怒ったように八百爾はそう友人の名を呼ぶ。
 この、年齢と性別以外は同じところが全く無いような2人は、しかし悟浄が見るといつも一緒にいた。
 肌の色も、髪の色も、性格も声も何もかもこんなに違うのに、それでもやっぱりお互いがベストな友人なのだろう。
 その連想から自分八戒に繋がりそうで、悟浄は意識して頭を切り替え、目の前の椅子に掛けていた上着を退かせた。
 李厘と八百爾は、心得たようにそこに座る。
「遊びからは卒業しちゃったのかと思って、みんな淋しかったんだから」
「卒業出来無ェって。ココ来なきゃ美人と中々同席なんて出来ないっショ?」 
「…ホント調子良くって判り易いよねー」
 テーブルに肘を付き、両手で小さい顔を支えて、李厘はあっけらかんと笑う。
「ま、戻ってくれてアタシ達は嬉しいけどさ」
「だから変わってねーって」
 言いながら、悟浄はレディの前から灰皿を退かした。



 嘘だ。
 自分は変わった。



 明らかに酒場にいる時間が増えている。判り易いと自分を表する李厘の読みは鋭いと悟浄は思った。
 自分は簡単だ。
 判り易い。
 居心地の良い場所に、居たいだけなのだ。



 それが前は家だった。
 今は酒場。



 言い方を変えれば。
 前は八戒の傍で。
 今は八戒のいない所だ。



 こんな筈じゃなかったのだ。自分は自分の思うままに行動すればいいと、そう悟浄は思った筈だった。
 八戒がどう思おうが、そんな事は悟浄の知った事ではない。勝手にすれば良い。自分は今まで通りで何も変わる必要は無い。我儘を言ったり、ふざけたり、そうやっていればいい。八戒が何を思ってもそれは八戒の問題で、悟浄の行動には何の影響も有り得ない。



 そう思っていた筈だった。



 実際、悟浄はそうしたのだった。好き勝手言って、八戒を振り回して。八戒は何も言わなかったから、好都合だと悟浄は思っていた。無言は悟浄をエスカレートさせた。
 八戒が黙っていれば。
 悟浄にとってはこれまでと同じ日々が続くだけだった。
 八戒のリアクションなんてどうでも良い事だから。



 それなのに。
 どうして、そう思えなくなってしまったのだろうか。



 自分のせいだ。
 悔しいが、それは悟浄自身のせいだった。
 八戒の腕を引いた時。
 八戒の首に腕を伸ばした時。
 八戒の服の裾を掴んだ時。



 そんな、今まで通りの接触を今まで通りにした直後、悟浄は思い出してしまうのだ。
 あの日の八戒を。
 その言葉を。


 
 そして、あの日の表情を、八戒の顔に探してしまう。
 それはもう、無意識に。


 
 そんな風に悟浄が意識している時、八戒は絶対に悟浄と目を合わせない。
 頑なに、碧の瞳は前を向いている。
 まるで、そこに眼を離してはいけない位に重要な物が浮かんでいるかのように。
 そんな顔で、ごく普通にやり過ごす。
 悟浄の腕を、自分から引き剥がしたような反応は、もう八戒は見せない。
 自然に。



 悟浄が思い出しても、きっと八戒は思い出してもいない。
 彼にとっては、今の悟浄の仕打ちに硬くなるばかりで、過去にまで思いを馳せる余裕はないのだろう。
 悟浄だけが。
 そうやって、悟浄だけが何度もあの日を繰り返す。



 それは、悟浄が理不尽な苛つきを覚える程で。
 その怒りを八戒にぶつける事が、最近は多くなった。
 女の話が多くなった。
『俺が言ってんだから従うだろう?』と、あからさまに口にする事も増えた。
 わざとらしく腕を引き、綺麗な顔を覗き込んだ。
 それでも、八戒の表情は変わらなかった。
 人形のように。
 キレイで静かで何も感じていない完璧な人形。
 そのうちに、悟浄は自分の行為そのものに吐き気がしてきた。
 こんなネチネチとした卑近な態度を自分が取っているという事に怒りを覚えた。
 何てことは無い。
 意識してるのも、気詰まりなのも、八戒じゃなくって、悟浄自身だけだったのだ。



 何で自分だけがこんなに苦しむのか、悟浄には全く理解出来なかった。そもそも悪いのは、口火を切ったのは八戒だったのに。



 そう考えると、ますます八戒に対して腹が立って来た。もう、今では家にいて彼の気配を感じるだけでも嫌だった。



 あんなに。
 あんなに傍にいるのが当然だったのに。


 
 そう思って、更に怒りが込み上げる。
 もう、家にはいられなかった。



 そうなると、悟浄の居場所は、この全てが嘘で固められた酒場しかないのだ。



「…何頭飛ばしてんの?」
 訝しげな李厘のジト目に、慌てて悟浄は愛想笑いを浮かべた。
「え?え?俺どっか飛んでた?」
「天竺までは往復してたんじゃないの?全く、目の前にこんなに美人が2人もいるのにバチ当たりだと思わないかな」
「李厘ちゃん、ダメよそんな事言っちゃ…悟浄さんでも色々考える事位はあると思うし…」
「…天然で言ってる?ソレ」
 眉端を下げて、注意するようにそう言う八百煮の言葉の中身はかなりザックリと悟浄を抉った。
 李厘は楽しそうに笑う。
「そーだよねー、きっとさ、美人のオンナにさんざん貢いで、やっと家に入れて貰ったらダンナが帰ってきて首の骨折れるくらい殴られたとか、悟浄ならやりそうだもんねー」
「まあ…悟浄さん、お怪我は大丈夫ですか…?」
「仮定の話でねぎらわないでくれる?」
 悟浄もつられて笑った。
 ちょっとだけ気分が軽くなった。
 そうやって笑ってる悟浄を見て、李厘の切れ上がった瞳と、八百爾の大きな瞳がちょっと和んだ。
 気を使わせたな、と悟浄は反省した。
 彼女達は馬鹿じゃない。
 こういう所にいれば、普通の女性よりもずっと相手の精神状態に敏感になる。
 声を掛けてくれたのも、悟浄を気にしての事だったかもしれなかった。
「ワリ。よーし、今日は俺バカ勝ちしたから、たまには夕飯奢ってやるよ」
「マジ?」
 目を輝かせた李厘は、コホン、と1つ咳をして、乗り出した身を戻した。
 その動きでテーブルの上を重そうな胸がズルズル移動した。
「アタシ達は嬉しいけどさ、悟浄は家に夕飯待ってるんじゃないの?」
 その心遣いは、しかし今の悟浄にはちょっと痛かった。
 それでも、悟浄はいつもの表情を保った。
「でも、ヤローと2人膝付き合わせてメシ喰うのと、美女で目の保養しながら食うのと全然違うだろ?」
「…ホント調子良いね」
 李厘は少し膨れた。
「でも料理上手いって評判じゃんあの同居人。それにあれだけ顔キレイなら目の保養になるでしょ」



 そう言われてすぐに浮かんだ八戒の顔が。
 人形のような横顔だった事が、少し悟浄には寂しかった。



「目の保養ねえ」



 悟浄は呟いて、煙草を取り出した。



「アイツ、やっぱりココの子達にも人気なんだ?」



 不意に沸いた好奇心に、悟浄はそう聞く。
 李厘と八百爾は、何をイキナリ、という顔をした。



「俺みたいな美形テクニシャンとは系統違うけどさ、ああいうのもやっぱりイイの?」
「ホント何言ってるか判んない」
 李厘の冷たいツッコミに、悟浄は唇を尖らせた。
「だから…イイオトコかって聞いてんだけどー」
 今度の李厘の返答は、深い溜息だった。



「あったりまえじゃない」



「何いってんの。キレイで背も高くて声も良くて優しげで、アタシ達みたいのとはお育ちも何もかも違うような雰囲気なのに、本当は気さくで凄く気を使ってくれて、イイオトコじゃない筈無いって」
「…遊んでみたい?」
 悟浄の言葉に、李厘は鼻で笑った。
「さあね。違うんじゃないの?−−−−ああいうのは、オンナが本気になるタイプだよ」
「…だよなー…」
 悟浄は煙草をふかした。
 そこまで別の男を面と向かって誉められて、悟浄が嫉妬しないのを2人は肩透かしを食ったかのように見詰めた。



 だが。
 その、オンナが本気になるような男は、悟浄が好きだと言うのだ。
 本当だったのだろうか、と悟浄はそんな事を思う。
 もう、八戒は遠くて。遠すぎて。そんな事も判らない。
 あんなに気が合うと。何でも相手のことが判ると思っていたのに。
 悟浄は最初ッから何も判っていなかった。
 その心を、全然察していなかった。
 だから、今八戒が判らないのも、もしかしたら当然なのかもしれなかった。



「…もしかして、悟浄さん…」
 八百爾が、細い指を口元に当てた。
「…この間八戒さんに告白した小鈴ちゃん、あの人の事が、お好きだったんですか…?」
「へ?」
 悟浄は長い睫毛をパチパチ瞬いた。
 前で、李厘が腕を組む。
「成る程ねー。だからそんな質問をアタシ達にしたんだ。変だと思った」
「お可哀相…悟浄さん…」
「だから仮定で同情すんなって」
 悟浄は片手で頬を掻いた。
 大体、八戒に告ったのが『小鈴』という女性だという事すら悟浄には初耳だった。
「大体小鈴って誰?俺の知ってるヒト?」
「…アンタの横に一生懸命にくっついてたのにね…」
 李厘は、片手で細いグラスをクルクル回した。
「アンタに惚れた女は可哀相だね。でも小鈴のことが違うなら良いや…。うん、丁度良い」



「ねえ、悟浄アタシと付き合わない?」



 悟浄は煙草の灰を叩くタイミングを一瞬外した。
 八百爾は、李厘に向き直って、本気で驚いた顔を見せている。
 李厘のいたずらっぽそうな瞳は、けれど本気だった。
 悟浄には判った。



 だから。
 煙草を口に運びながら、ウインクを1つしてみせた。



「だからー。俺に惚れると火傷するって。何せ俺様は全世界の女性の為に存在してるジャン?誰か1人のものになったら、それ以外の数十億の女性全員を泣かせる事になるしー俺って罪作りだろー」
 李厘の瞳に、少しだけイタズラっぽさが戻った。
「…ホント調子良いよ」
「いや、マジで俺李厘の可愛い顔も締まった身体もそのくせ突き出したデンジャラスバストも好きだけど。1晩なら全身全霊でご奉仕するんだけどさー、束縛は勘弁な」
「…悟浄さん…」
 悟浄が視線を移すと、八百爾が、いつもは大人しい表情を怒りに震わせて悟浄を睨みつけていた。
 まあ、仕方ないな、と悟浄は諦めて煙草を消した。
「あなたは…貴方って人は…」
「あー、良いんだって八百爾ちゃん」
 その肩に、李厘が良く焼けた手を置いた。
 それだけで、ふっと八百爾の体の力が抜けた。
 李厘は苦笑している。
「判ったよ」



 悟浄は誤魔化さなかった。
 それだけで、他の女に対するのとは違う礼儀を表している。
 そう、李厘は納得したのだった。
 うやむやにされて、空回って、幻滅して傷付いて付き合う宣告だけでなく別れの宣告までしなくてはいけなくなるような目には、合わされないで済む。
 それが悟浄にとってはよっぽど楽でも。
「あー、でも1回くらいはその胸の谷間で寝たいかも…」
「悟浄さん!!」
「良いんだって、八百爾ちゃん。違うんだって」
 李厘はヤバイくらいに切れ込んだ服越しに自分の胸をぷにぷに突付いた。
「ま、残念だね悟浄。この感触は味合わせてあげないからね」
「…1回くらいならさ…」
 ちょっと本気で悟浄は呟いたが、李厘は笑い飛ばしただけだった。
 そうかと思うと、身軽に席を立って、八百爾の腕を取る。
「さ。夜は短いのに、気の無いオトコと飲んでたってつまらないもんね!河岸変えようよ八百爾ちゃん!」
「…ええ」
 八百爾は、手を引かれながら、嬉しそうにはにかんだ。



 その。
 白い頬が。
 その表情が。
 八戒に似ていた。
 今は、もう見せなくなった八戒の表情に。
 その表情の先で、その手を引いている李厘が自分とダブって、悟浄は目を細めた。


 
 店を出て、悟浄はブラブラと歩いた。
 告白を断ることは、悟浄にとって簡単だ。
 きちんと断る事が、女相手には大切だと悟浄はジゴロ暮らしをしていた時に学んだ。女同士のネットワークは予想以上に広い。不用意に傷つけるとその後で身動き取れ無い程に噂で捕らわれる。
 それ位なら、フォローを交えて、重苦しくならないように、軽く断った方が女の中の評判も良い。
 そんなのは、悟浄の得意技だった。



 じゃあ。



 何で、自分は八戒に同じようにしてやらなかったんだろうか。



 李厘はさっぱりした性格だ。
 そして、八戒も割り切る事が早い人種だった。
 頭も良いし、傷付かない方向に身を処する判断も的確だ。
 悟浄が自分のスタンスを見せれば、そのままふざけた会話の一部に紛れさせ、上手く消えさせる事も出来ただろう。



 何で。
 自分は怒ったのだろうか。
 告白くらい、どうって事ないのに。
 あしらう事だってもう手馴れているのに。



 そりゃ、オトコに告られたのは初めてだからな。
 悟浄はそう納得した。
 違う所なんて、それくらいしか考え付かなかった。
 そして。
 そう考えれば、そこで全ての思考が停止した。
 オトコだもんな。



 目の前で、はにかんだ八百爾の顔が夜空に浮かぶ。
 驚くほど八戒に似ていた。
 全然違う顔立ちなのに。
 今ではもう、思い出すことも出来なかったような、八戒の笑顔に似ていた。
 あの頃は。
 悟浄が李厘の位置にいて、手を引いていた。
 それが当然のように。
 八戒の行動を決めるのも。
 八戒の笑顔を見るのも。
 どちらも自分の特権だと。
 そんな事思うこともなく、当然の権利を行使していた。



 全く似ていない李厘と八百爾。
 それでもいっつも傍にいる2人。
 李厘の告白に驚愕した八百爾。
 本気で悟浄に怒った八百爾。
 李厘に手を引かれた、あの顔。



 もしも、八百爾の心の中に、前の八戒のような想いがあるのなら。
 自分達のようにはならないといい、と悟浄は素直に思った。
 壊れない関係があっても良い。
 均衡を壊す想いを持っていても、それでも壊れない関係があっても、良いと悟浄は思う。


  
 自分達は駄目だった。
 どうしてか、駄目だった。


 
 −−−−−八戒。



 今は何をしているだろう、と悟浄は思った。
 料理をしているか、でももう遅いから寝ているか。本でも読んでいるか。
 少しは、自分の事を考えているか。
 帰ってきて欲しい、と。そんな風に少しでも。



 何だか、悟浄は居たたまれなくなって、石畳を蹴った。
 歩幅が段々広くなる。次の脚を出す速度がどんどん早くなって…気が付けば走っていた。



 会いたかった。
 八戒の顔を見たかった。
 人形のような顔でも良いけれど、でもそれよりは、あの八百爾のような、はにかんだ幸せそうな笑顔が見たかった。
 顔を見て。
 話をして。
 その細い腕を取って。
 腕の中に抱き締めて。



 脚が勝手に止まって、悟浄は前につんのめった。
 転びそうになったが、心臓が冷えているのはその恐怖ではない。
 鼓動がうるさいのも、走ったせいだとは思えなかった。
 不自然な動きをして止まった悟浄を、通行人が訝しげに見る。



 そんな事は、悟浄にとって大した事では無かった。



 自分は大人で。
 欲望を抱えた男で。
 相手は動物ではなくて。
 だから。
 そうだ。だから。



 だから、判っていた。
 八戒に告白されてどうしてあんなに自分は激怒したのか。
 瞬間に沸騰した怒りの理由。
 そんな事、言ったら全ての終わりだ。
 絶対、絶対自分達は今まで通りではいかなくなる。
 自分が八戒に告白したら、ぜったいこの関係は壊れる。
『好き』は構わない。『大切』も良いだろう。
 でも『恋愛』は絶対駄目だ。
 そんな事をしなくても、八戒の1番傍にいたのは悟浄だった。
 同居人で気の合う友人で、それがベターだったのだ。
 ベストを選んで、全てを失うよりも、悟浄はそれを選んだ。
 ギャンブルで。 ハイリスク・ハイリターンを狙えるのは、悟浄が金銭を何処かで甘く見ているからだ。
 金なんかより。
 よっぽど大切で。
 そして取替えが聞かないモノに対して。
 悟浄は勝負出来なかった。



 今で充分だ。
 八戒が1番『好き』なのは悟浄で。
 そして、八戒はもう『恋愛』は出来ない。
 それなら。
 それなら悟浄はそれで良かった。
 八戒の『恋愛』を独占した花喃を嫉妬したが。
 彼女が八戒の『恋愛』を全て攫ったまま死んでくれたから、だから悟浄は安心してもいた。


 
 そう納得した。
 無意識で。
 こんなに計算したのだ。



 それなのに、あの日、あっさりと八戒は悟浄に告白した。
 それはもうあっさりと。
 勢いで。



 ダメモトでいいから、と。



 駄目になっても良かったのか。



 そう、悟浄は思ったのだ。



 安らげる家庭というものを求めて、求めて、やっと手に出来て、それを必死で安定させていた悟浄の気も知らないで。



 あっさり、八戒は全てを壊した。



 だから。
 だからあんなに怒ったのだ。



 そして、今ならもう判ってしまった。悟浄が八戒に取った態度は、全て悟浄が恐れていた態度だった。八戒に告白して、八戒がこう言ったらどうしよう、と。そう恐れた言葉だった。全て。普通の男だったらそうやって対応するだろうと思ったから、怯えた。その『普通の男』のシュミレーションを、そのまま悟浄はなぞったのだった。



 結局は。
 結局は、自分は何に怒っていたのだろうか。
 何に怯えていたのだろうか。
 手の中のものを惜しむ余りに、それ以上の幸せを払いのけた。
 八戒を。
 大事にしようと。傷つけないようにしようと。好意を持ってくれていればそれでいいと、そう思っていた筈の相手を傷つけた。


 
 馬鹿だ。
 自分は、何を護ろうとして。
 そして何を失ったんだろう。



 八戒は、今何をしているだろうか。
 八戒は、今誰を好きだろうか。



 八戒は。
 今は、悟浄をどう思っているだろうか。



『すみません』



『すみません。僕、悟浄が好きです』



 いくら調子良いやつだと周囲に言われても。
『俺も』だなんて。



もう、口に出来る筈がなかった。
やっと気づく悟浄。李厘ちゃんは原作より年上。またパラレルになっちゃったよ。