悟浄はその日も近所の酒場に捲簾と連れ立って飲みに行っており、日付が変わってなお数時間した頃に良い気分で帰宅する事にした。
「あら、悟浄v」
で、その帰りに大荷物を持つ若い女性と出くわしたのである。
長安の夜の帝王と一部で名高い悟浄なので、捲簾も今更その顔の広さに驚いたりはせずに1歩退いて煙草に火をつけて傍観者の立場を崩さずにいた。
悟浄もこの町で夜働く女性なら顔も声も店もスリーサイズ(推定)も覚えているタイプである(オイ、名前はどうした)ので、にこやかに応対した。
「久しぶり(名前は覚えてないけど)どーしたよその荷物」
「アタシ、今度結婚すんのよね」
何でもその女性は世話焼きの叔母の勧めで南の方の地主との縁談をまとめたらしい。
華やかな夜の商売とは脚を洗って、地味だが堅実な妻となるのだという。
女性は強いなあ、と悟浄は今更のように感心した。女性はいくらでもゼロからやり直せる。全てを切り捨てて本当に真っ白になれる。
「で、あの店で使ってた衣装や小物を処分しようと思って。…あ、悟浄いる?」
「は?」
ぱちくり、と長い睫毛を瞬かせた悟浄に、女性は軽やかに笑った。
「恋人に着せたら新しいプレイになるかもよ?」
その時は、ただ押し付けられたようなものだったのだが。