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天界の女王様 2
 走って軍議の間へと向かう悟空を、天蓬は全力で追いかけた。
 今日も今日とて天界に知らない者の無き美貌の元帥は、知らない者の無い格好をしている。白い肌に白い白衣1枚。シャツも着なければネクタイもない(そこでネクタイだけ締めているのもかなりマニア向けである)。
 そして下半身全脱ぎ。
 彼の上官である捲簾大将と共に「西方軍裸族説」を裏付ける格好である。イヤ、傲潤を巻き込むようなネーミングはどうかと思うのだが。
 そして、先程描写した通り、元帥は全力疾走である。
 白衣の裾は後方で翻り、適当に止められたボタンを弾く勢いで滑らかな光沢を放つ腿が跳ね上がる。
「待ちなさい、悟空!」
 いや、悟空、逃げた方がお前の為だ
 回廊のあちこちで鼻より大量失血した天界人が沈没している。死の無い天界人で良かったね。
「待ちなさいってば!」
 彼の為に天界のあらゆる便所に備え付けてある『便所ゲタピンヒール仕様』が鋭く床板を蹴った。
 柵を潜り抜けた悟空を追って、手摺についた片手を支えにしてふわり、とその身を空に踊らす。
 モロ真正面からその光景を見てしまった衛兵が何かを呟きながら笑い泣いた。
 きっと社会復帰は無理だろう。
 この女王様が、何故珍しくもそこまで御自ら動かれているかというと、それには勿論理由がある。



 それは金蝉が珍しく女王様の私室へ向かったのが始まりだった。
 この幼馴染は融通の利かない堅物で、しかも幼い頃から一緒にいるせいで免疫だけは付いているという厄介な位置(金蝉視点)なのだ。
 軍とナタクと李塔天について教えて欲しいと告げる幼馴染の前で、相変わらず白い足を意味も無く組替えながら、元帥は華のように微笑んだ。



 話されたのは『捲簾との馴初めv』だった。(原作通り



「…いや、俺は別にお前と奴がどうやって初めて会ったかなんて聞いてねーんだが…」
 俯いた金蝉の額に青筋が浮かんでいる。遊ばれてんだよ。いい加減慣れたらどうだ金蝉童子。
「---どうします?この先を聞いたらもう天界軍に関してそ知らぬ顔ができなくなりますよ」
「…バカにしてんのか?」
 だからソレを聞きたがっているんだって。判ってやってくれ元帥



 そして次に語られたのは『捲簾にオフロに入れられちゃいましたv』だった(原作通り



「だから俺が聞きたいのは!!奴が服を脱がす手付きがヤラしいとか!!書類にかこつけて風呂を覗いたとかじゃなくて!!」
 金蝉血管ブチ切れ大放出。
「えー、その後ですか?そりゃ隅々まで綺麗にして貰った挙句に彼に汚されましたけど、それはこれから長さサイズまでゆっくり…」
「そこは削除しろ!!!」
 ぷう、と膨れて見せた元帥は、まあいいか、とまた脚を組替えた。見えるんですけど
「まあ、丁度その頃からですね、下界に異様な数の大妖怪達が頻繁に出現しだしたのは」
 肩で息をする金蝉の前で、平然と元帥は煙草を灰にしていく。
 やっと本題か、と金蝉は席に座りなおした。



 それから語られたのは『戦闘で単独で無茶したらあの人凄く怒っちゃってvでもそれが嬉しかったりしてvもう本当あの人カッコイイですよねvあ、でも自分で言わなければもっとカッコイイのにいv』だった(原作通り



それ以降闘神の座についたナタクの活躍ぶりは貴方も知る処でしょう
…ちょっと待てえ!!!
 金蝉は椅子を蹴り倒すと天蓬に掴みかかった。
 ふわり、と花の香りがする。乱暴に掴んだ白衣の胸元は下の白い肌を透かし、よろけた(演技100%)天蓬のナマ足が金蝉の内股を下からするりと撫で上げた。
 金蝉は自分の危険を感じて手を離すと飛び退った。
 ち、と舌打ちした元帥に、自分のとっさの判断で貞操が守られたのを知る。
「ここから先は、僕の推論です」
 あっさりと幼馴染の貞操を奪おうとした元帥は話を元に戻した。
 ちなみにここまで7ヶ月経っている。いくら時間のない天界とはいえ、そりゃあ金蝉も苛つくだろう。
 で、やっと話を聞いてみれば、悟空が盗み聞きしてたりして(風呂Hの話は聞いてなかった事を保護者として金蝉は祈りたい)天蓬は飛び出す彼を追って行ってしまった。
 つくづく損な役回りの金蝉であった。



 で、軍議の間に天蓬がついて見れば、捲簾とナタクは剣を交えているし、悟空は可哀相に大声で泣いている。
 しかし、むしろうんこ李塔天がうんこ李塔天のくせして高笑いなんかしてるのが女王様のお気に召さなくて、天蓬は側の武官を一瞬で誑して剣を奪うと、彼に斬りかかった。
「-----!!」
 嫌な音がしてナタクの剣に阻まれる。親思いのその行動は、しかし当の親がふらふらと元帥に近づいてしまった為に台無し
「元帥〜
 白衣の裾から伸びる長い脚に頬擦りせんばかりに擦り寄るうんこ李塔天に、元帥の碧の瞳がそれはそれは綺麗な嗜虐の光を浮かべた。
 ピンヒールの踵が、うんこ李塔天のチャーム☆ポイント(ラッキーアイテムは菱形よvとでも朝のTVで言ってたんだろう)の額紋に寸分狂わずに突き刺さる。
ぎゃあああv
 こころなしか(いやむしろあからさまに)嬉しそうな父の声に、ナタクは殺人兵器モードのまま滝のように涙を流した。
 これが父の愛情なら、やはり2人きりになった時に愛情を錯覚したら怖いだろう。
 そんな父が見てられずに(そりゃあな)、ナタクは天蓬をぶっ飛ばした。
 バン、と音がして天蓬の肢体が壁に弾む。
 細い身体が叩きつけられて、その反動で白衣が舞い上がった。
 辛うじてその身を封じていたボタンが弾ける。
 この場の天界人、出血多量による意識混濁者58%超過。
「―――――天ちゃん!!」
 駆け寄った悟空の前で天蓬は痛みに柳眉を寄せ、上体を起こした。
 はだけた胸元から桃色に染まった乳首が覗く。
 やや苦しそうに細まった碧の瞳は無粋な眼鏡に邪魔されず、淫眼の魔力完全放出。
 天界の皆様方は前を抑えてごろごろ床を転がった。
…痛いのがイイんだろ…
もっと酷い事してやろうか…
 周囲の電波との交信にナタクは虚ろな顔で何も無い天井を見上げていた。
 もはや魂がその辺に浮いてしまったらしい。
「相変わらず大胆ねお前」
 天蓬を背後に庇いながら、視線もやらずに捲簾が言う。
 大胆っていう言葉の適用範囲を楽々越えてると思うんですが大将。
「どうする、コレ」
 聞かれて、天蓬は周囲を見回した。
 ナタクはもう訳が判らず、混乱の上に取り敢えず殺戮している。唯一止められるうんこ李塔天は率先して妄想の世界にダイブした挙句腎虚状態で意識不明。
「そーですねえ、疲れるまでお相手すれば、ナタクもきっと大人しくなると思うんですけど」
「…俺かよ」
 流石に大将が嫌な顔をする。闘神は強い。しかし捲簾は彼に傷をつけるつもりは無いのだ。
「眼には、眼を」
 不意に何かを思いついたように天蓬はにっこり笑うとすうっと息を吸った


「ほむらあ〜v来てえ〜vv」


 来てったって
「呼んだか元帥!!」
 ズシャアッ!と少年漫画のような効果音と土埃を上げてもう1人の闘神が現れた。封じられてんじゃなかったのかオマエ
「ええとですね、ちょっとナタクの気が済むまで手合わせしてて下さい。判ってるとは思いますが彼に傷1つつけたら別れます
 端的な指示の元帥に、しかし焔は真面目に頷いた。
「俺の愛を確かめたいのか。可愛いことをするな元帥」
 何処をどうしたらそういう結論になるのか解らないブラックボックスな脳みそ(ここが禁忌だろう、きっと)で判断し、焔は斜め45度で睫毛を伏せるようにして微笑んだ。
「解った(何を)お前の試練に応じよう。お前と言う枷に捕らわれてからというもの、俺はお前の頼みを断る事など考えられない男になってしまった。任せておけ。俺の愛に安心してその身を委ねているかいい。悪いことにはしない…」
 長い台詞の間中、ナタクの攻撃をかわし、剣を交えている辺りが腐っても闘神。
 呆然と突っ立っている悟空の頭を優しく撫でて、天蓬は無邪気な微笑を見せた。
「さ、悟空、帰りましょう」
「え、だって、ナタク…」
「誰にだって、ちょっと苛々する時が有りますよ。また明日一緒に遊びに行きましょう。大丈夫ですよあの煩い李塔天は僕が調教していてあげますから、その間ゆっくり遊んでいればいいでしょうv」
 ちょっと苛々で済むのかこの大惨事。
 しかし、猿脳の悟空は、天蓬の優しい笑顔につられて、うんvと頷いた。調教っていうのはちょっと難しくて解らない言葉だったけれど煩いおじさんの邪魔の入らない所でゆっくりナタクと遊ぶっていうのは楽しい提案だと思ったのだ。
「…なんだこれは」
 やっと部屋に到着した金蝉が呟く。一面血の海(大半は鼻血だが)奥では闘神2人がハルマゲドンの真っ最中である。
「あ、金蝉!!」
 全くその周囲を目に入れてない悟空が身軽に流血を避けて保護者の元までやってきた。
「帰ろ!」
「帰ろうって…良いのか」
「うん!ナタクとは明日遊ぶって決めたから!お腹すいたし!」
 猿脳侮りがたし。
「じゃ、僕らも帰りますか捲簾」
「おー。大丈夫かよお前」
 背中を叩く天蓬に、捲簾は気遣わしげな視線を送った。
「平気です。でも部屋で治療を手伝って下さい」
 部屋に来る口実をちらつかせる元帥に、捲簾の瞳がにやりと笑った。
「ハイハイ。しばらく正常位はナシだなあ」
「当然でしょう」
 前全開の白衣を両手でかき合わせて(むしろそっちのがエロイ)元帥はさっさと出口に向かった。
「任せておいてくれ元帥!!」
 焔の声なんて聞いちゃいない。
 捲簾はちょっとだけそんな闘神達を振り向くと、ま、いっか、と天蓬の後に続いた。



「ねえ金蝉、チョウキョウって何?」
 その夜に小猿から出た質問に金蝉は秀麗な顔から表情を滑り落とした、らしい。
出場者全員アホ。原作にのっとって話を作った予定が完全別モン。アホって、幸せなんだなあ。