捲簾が懲罰房に入った。
それ自体は珍しくもない。
が、理由を聞いて僕は読んでいた本を引き裂いた。
殺人人形であるとされた子供を庇って、勿論庇いきれるはずもなく、牢に放り込まれて肋骨折るリンチ受けて、白竜王がわざわざ出向いてやっと身柄を渡して貰えたという。
本当の馬鹿た。どうしてそんな。
出来すぎだ。
彼は頭の悪い方ではない。
むしろ優秀だろう。
この世界の腐敗も真実も知ってて、それでも彼は子供じみた正義を振りかざす。
本当にナタクを何とかしたいなら有効な手は他にいくらでもあるのに、その場で言いたかったからなんて平気な顔で言う。
優しい。
彼は優しい。
多分本当の意味で優しい。
女性が「優しい人が好き」なんて言うと大体「自分にだけ優しい人が好き」という意味だが、彼の優しさは公平だ。
見事に公平で全く偏りがない。
たとえ。
僕を相手にしても。
それでも少しは思った。
彼をあんな目に合わせて、資格剥奪なんて僕が許すはずはないと、他の誰の下でも働けるほど器用ではなく、貴方が特別なんだと。
そんな僕の意志を、少しは彼も判ってくれているだろうと。
だから僕は李塔天の所に行く
無謀だし、正義なんかじゃ勿論ない。
あえて言うなら僕の狂気だ。
僕も懲罰房に入るかもしれないし、李塔天が良く見せる表情からすると、似たような軟禁をヤツの寝室でされるかもしれないけれど、捲簾が関わったら僕は保身なんて考えが及ばない。
その狂気はひどく心地好かったから。
彼の狂気も見たかった。
彼は拘束したが、あの部屋には悟空がいる。
刃物もある。
脱出は容易いだろう。
そう思っていた僕は、悟空が助けに入った時に多分本当に不様な顔で驚いただろう。
そうだ。
僕が勝手に気負って要求したって、彼にそれを返す義務はない。
「捲簾は何か言ってましたか」
部屋に帰りながら僕は悟空にそう尋ねた。
「心配してたよ」という返事に安堵する自分の卑屈さが気持ち悪い。
そんな僕に、悟空は続けた。
「天ちゃんは、ああ見えてキレやすいからって」
相手が捲簾だったからだ、と。
彼はそんな事すら考えてもいないのか。
僕は蹴られた傷を指で辿って目を伏せた。
僕の呼ぶ声は、彼には届かない。