絶対的な質量が身体を割り開く。
 慣れた身体は衝撃に、というよりは快楽に竦み、それを宥めるように大きな手が頭から背中までを辿る。 
 優しい優しい手。
 それが、子猫の頭を撫でるのと同じ重さでしか無い事を、天蓬はもう気付いている。
 あの時。無謀な真似をした自分を庇った捲簾は何の見返りをも求めなかった。
 その気持ちを、身体を求めて沢山の者が天蓬を庇ったが、無償の動きなどをしてみせたのは捲簾しかいなかった。
 だから彼を特別だと思ったのだ。それは間違っていない。
 彼は確かに何の見返りも求めていなかった。


 間違っていたのはただ一つ。
 彼が無償で庇うのは自分だけなのだという、思い込みにしか過ぎない。


 だれを責める事も出来ない。
 天蓬の勝手な先入観だった。
 そんな屈辱を受けて、何故この男にまだ抱かれているのだろうと思う。
 今更引けないという意地だろうか。
 もしかしたら捲簾にとっても自分が特別になるのではないかという幻想だろうか。
 それともこの快楽に対する未練だろうか。
 全て違うようにも、総てに当てはまるようにも思う。
 断続的に突き上げられながら天蓬は目を開く。
 それでも捲簾を捉えることなど出来はしないのだが。


 縋るものを求めて天蓬の手が捲簾の背に回る。
 敏感になった指先がいつもそこで見つけるのは細いかさぶたの跡。
 女性の長い爪によって刻まれ、別の女が嫉妬の為にその傷を自分の爪で上書き、そうやっていつまでも治らない傷。
 更に強く腰を打ち付けられて、天蓬は自分も立てそうになった爪を拳に握った。
 何人もの女と同じ傷など付けるつもりはない。
 自分が欲しいのは背中の一部などではない。
 どんな者が捲簾の上を通り過ぎたとしても、彼が死ぬのは天蓬の為にだけであるように、そう決めたのだ。


 身体の自由も利かない快楽の中、不意に凄まじいばかりの艶麗な微笑を浮かべる天蓬に、捲簾は不審気に眉を上げ、すぐに関心を無くして行為を続けた。
 それでも構わない。
 関心も無いくせに天蓬の大部分を抉り取った男にこんな自分の心など絶対に見せない。 
 絶対に。