つよく吹き付ける風にすぐに形を変える乾いた砂が続く地形は足場が悪い。
流砂に足を取られ不利になる方にわざわざ自軍の布陣を敷いたのは、その方が他軍に動きを制限されずに済むからだ。
邪魔くさいことこの上ない東方軍麾下が展開しているであろう右側に広がる森を鬱陶し気に見やって、天蓬は軽く眉を顰めた。
戦況は悪くない。
ただ良くも無いだけだ。
自軍の大将が直属の遊撃隊と共に連絡を絶ってから既に丸2日が経とうとしていた。
夜の闇は今は沈黙している最前線の様子も静寂で包み込み、深く沈めて全てを覆い隠す。
時折思い出した様に響く銃声だけが、これが嵐の前の静けさであることを告げていた。
伝達系統の混乱はむしろ、味方である筈の天界軍に寄ってもたらされた。
こういう時あの男は作戦など全く無視して自分の思うとおりに動く。
少なくとも自軍の損害が最少であるように。
そして誰もがそれに疑いを持たない。
それは天蓬が持つカリスマとは、似て否なるものだ。
徐に無線に手をかける。
スイッチを押した。
「西方軍全軍通達。撤退しますよ。」
「元帥!?」
後ろに控えていたのは自分直属の部下だ。
あの男が置いていった。
「あのヒト達がそう簡単にくたばってくれるなら、僕はこんなに苦労してませんよ。後方4Kmにある砂岩地帯まで撤退させてください。僕と後数名、ここに残ります。」
にこりと戦場には不釣り合いに艶やかな笑みを天蓬は浮かべた。
先を読む。
策を立て直す。
あの男の先を行くには、どうすればあの男を動かす事ができるのか。
考えただけでイきそうだ。
捲廉がもしも死ぬとしても、それは今では無い。
それが判っているから、脳細胞を活性化させて、あの男と闘う。
そうだ、むしろ自分はあの男と闘っているのだ。
例えあの男の死ぬ光景を見れなかったとしても、その瞬間を自分だけは知っている。
確かに知っている。