彼が自分を個別認識している訳では無いと理解することは、天蓬のプライドをいたく傷つけた。
不覚にも自分が相手を認識してしまった後なら尚更だ。
見ている様で誰も視界に入れていない事はすぐに気がついた。
誰にも何にも特に興味が無いのだ。己にすら何も感じていないのかも知れない。
ゾクリと背中がそそけだった。
こんな男が存在したのか。
自分を見ない男。
見ない癖に何も惑わずあっさりと伸ばされた指先を受け止めた男。
優しい等とは唯の錯覚だ。
何故誰も気づかない?
近来稀に見る痛めつけられ方をしたプライドはまだギシギシと軋みをあげている。
けれどそれを好奇心が領駕した。
この男に興味が在る。
繋がってみれば何か解るだろうかと思ったのは衝動だった。
とはいえこの男が戯れに抱く女共と一緒にされたのでは意味が無い。
この男、捲廉にとっての意味を持つ何かに。
どうすれば。
「何考えてんだ。余裕だな?」
一際強く突き上げられて、声を噛み殺した。
声などあげてやらない。
快楽になど溺れていたら、この男を見極められ無くなる。
見失ってしまえば、傷ついたプライドを回復させる術をも失ってしまう。
汗でぼやけて目の前に在る筈の顔が良く見えない。
耳に届くのは粘質な水音と荒いだ呼吸音のみになる。
目を懲らした。
目の前に在る顔を指先で確かめるように触れてみる。
微かにわらう気配がした。
目の裏に表情が浮かぶ。
口元を歪め余裕の表情で荒ぐ息を口元にのせて、でも瞳だけがどこまでも静かで。
いつかこの男を揺るがす楔を自分が打ち込んでやる。
その時を夢想して天蓬はうっとりと微笑んだ。