「なあ、お前高反射性シールって知ってっか?」
「は?」
は書類を置こうとした手をつかの間止めた。
細く開いた窓から吹き込む風に短い髪を揺らしながら、の上官である捲簾大将は頬杖をついたまま、立ち尽くすに斜めに視線を上げた。
「・・・それはこの事務処理に関係あるんでしょうか」
未決の書類をドサリと机の端に置いてが嫌味ったらしく告げても、勿論捲簾は表情1つ動かさなかった。表情豊かな癖にポーカーフェイスも上手い上官である。まあそれでなくては軍人は勤まらないのだろうが。
「窓ガラスとかの内側に貼るんだよ。薄いフィルムなんだけど、片面からの光はほぼ完全に透過する。でも反対側からの光は反射すんだよ。まあミラーガラスにする訳だ」
「どっからの知識・・・スミマセン、愚問でした」
は肩を落とした。こんな
何の役にも立たない雑知識を持っているのは西方軍の華、天蓬元帥以外にありえない。
この間は下界で小型録音・再生マイクを見つけて凝っていた。その前に降りた時は声紋を元に他人の声を編集するソフトだ。
『軍事行動中、敵の指示系統を乱すというのは極めて効果的な策です。また、ウチの軍がこういった道具によって
撹乱される可能性も皆無ではありません。上に立つ者としては常に時代の変化や流れの先を読み取って吸収する義務が有ります』
という天蓬の主張は最もだろう。
ただし、現在西方軍の敵は
指揮系統など皆無の大型低知能妖怪なのだが。
結局は元帥自身の趣味である。
そういったウンチクを延々聞かされたであろう上官に、は若干同情した。
しかし。
「・・・そんなコトより!!大将!演習の布陣決めてくださいって言ってるでしょう!!もうあと3日ですよ?聞いてんですか貴方は!!椅子に座ったまま
ボ――――――っとしてる暇があったら少しは仕事して下さいってば!」
「・・・。お前仮にも大将に向かってどういう口の利き方だコラ」
素早く伸びた捲簾の指に片耳を捕まれながらも、は涙目で言い募った。
「将官クラスには関係ないですけどね、佐官以下には重大な演習なんですよ!元帥だってすっごく楽しみにしてるんですから!ウチの軍は大将のリードと元帥の頭脳で引っ張られてる軍ですから『その二人がいらっしゃらない場面でどれだけ動けるかっていう個人の真価が試されますね』って演習場が見える会議室とか予約なさったんですから!」
「・・・じゃヤツにやらせろよ。布陣」
そんなに入れ込んでるんならさあ、とヤル気なさそうに捲簾がペンを回し始めた。
は力無くうなだれた。
「最後にお会いしたのが4日前で・・・
本を抱えてお部屋に入られる後姿でした・・・」
「・・・そろそろ死んでるかもな・・・」
揃って遠い目をして天井を見上げ、しかし慣れている捲簾はすぐに目を向けなおした。
「じゃあ、何。ヤツは仕事を俺に押し付けて、結果だけ高みの見物するっていうのか」
「・・・非常に端的に言ったら、そうでしょうねえ・・・」
フォロー出来ずに、は肯定して首を竦めた。
・・・怒鳴り散らすかと思った捲簾は、黙ったままだった。
恐る恐るが窺うと、捲簾の眼は完全に据わっていた。
ヤバイ。
の背中に嫌な予感が走った
(時速150q)。
「・・・おい」
「ハイッ!」
「演習の敵のデータ寄越せ。明日までに最高の布陣を組んでやる」
「本当ですか!」
の声が弾んだ。
てっきり元帥に嫌がらせに行くか、完全サボるかと思っていたである。
「今すぐデータ持ってきます!」
部屋を出ようとしたの背中に、更に捲簾の声が飛んだ。
「ついでに下界降下の申請出して来い。至急の最重要事項だ。理由は軍機密にして明日には降りれるように」
「はいッ!で、大将1人分のワクで宜しいですか?」
「お前1人だ」
は?と振り返って、は捲簾の眼が据わりっぱなしなのにやっと気付いた。
嫌な予感再燃。
「見てやがれクソ天蓬・・・」
凄んだ眼のまま口元だけで笑う捲簾に、は自分が巻き込まれたのだという事をやっと悟った。
ちらりと腕時計を見て、は焦りに顔を強張らせた。
「やば・・・」
最後の高反射性シールの端を引っ張って窓に貼り付け、気泡の入っていない事を確認する。
あの後、ブチ切れた大将命令では下界にお使いに出された。
下界に降り、情報を元に買い物をし、天界に戻ってからはセッティングまで1人でこなしたである。どう考えても割りに合わない仕事だった(しかも本来の業務とは掛け離れている)が、あの状態の大将に歯向かう程の勇気も無謀さも、にはなかった。
ただ、天界帰還の際のゲートが不安定で待機時間が長かった(きっと軍部の嫌がらせだとは思っている)為、その後睡眠時間を完全に削ってもには時間が足りなかった。大将に指示されたリミットから3分が経過している。この窓にシールを張り終えた事で全ての指示は終わったが、この3分がの明暗を分けた。
ガチャ、というノブの回る音に、咄嗟にはカーテンの中に隠れた。
「貴方も見に来るなんて思いませんでしたよ」
低くて高いトーンの声。落ち着いている癖に辛辣で、上品な癖に蟲惑的。
そんな稀な美声の持ち主をは天蓬元帥以外には知らなかった。
「可愛い部下のカツヤクだぜ?見るに決まってんだろ」
揶揄するように答える声は勿論捲簾大将である。
間に合わなかった、とは窓とカーテンと備品の隙間で固まった。
しかし、良く考えてみれば隠れる必要など無かったのだ。
ここの会議室を、天蓬に頼まれて予約したのは自身である。先に来て机の片付き様やら灰皿のチェックをするのも不思議ではないはずだ。
入ってきた大将と元帥に軽く礼をして出て行く・・・というのは自然だったろう。
今ソレをやったら滅茶苦茶不自然だが。
ガチャリと鍵が閉まる音を、は目の前を暗くしながら聞いた。
「どれ・・・あー、滅茶苦茶良い眺めだなココ」
軍服の裾をさばきながら捲簾が窓に近づいて、ガラスに片手を突く。内側からは全く普通のガラスにしか見えない事を確認してか、その口元に魅惑的な笑みが一瞬上った。
が、次の瞬間にの縋りつくような視線に気付いてその微笑みは滑り落ちる。
それでも表情を変える所までいかないのが流石軍大将だ、とは泣きそうになりながら変な所で賞賛した。
「でしょう?わざわざ取ったんだから当然ですよ」
傲慢な口調で天蓬も窓に近づく。
自然にを背中で庇うようにしながら捲簾がその後方に退いた。
「はいはいはい。元帥閣下は隙が無えんだってんだろ・・・あ、
見っけ」
部下の名を口にして捲簾は窓越しに手を振ってみせる。向こうからは見えないのを知っていてのフェイクだ。あざといなあ、とは小さくなりながら思う。結構肝が据わってきたらしい。
「・・・演習前ですから、緊張してこっち見る所じゃないでしょう」
フォローするように天蓬が笑う。
大将と2人きりだと、こんな無防備に笑うんだ、とは思った。
気配を探ることもせず、ゆったりと構える天蓬というのは結構珍しい。彼はいつも隙を見せずにどこか張り詰めた気を発していた。
それが今は無い。それだけ捲簾には大事な一部を預けているのだろう。
罠に嵌められるとも知らずに。
そこでは思い出した。この部屋は罠が仕掛けられているのだ。セッティングしたのは当の自分なのだから。
しかし、『それを使って何をするか』まではは知らなかった。聞けば良かったかとちょっと思う。
「何してるんです」
悩んでいたの耳に天蓬の低い声がした。
天蓬の後方に立っていた捲簾が、長い腕を白衣の腰に回している。
そのまま体格差を武器に天蓬の項に顔を埋めた。
「イイコトv」
あああああ、ナニするつもりだったんですか大将。
ああ良かった聞かなくて。
天蓬は完全につれなく、腰に回った手を払い落とした。
押しても無理だろうと思わせる位にその気の皆無な払い方だった。
眼鏡の奥の視線は2手に別れる軍を見つめている。
軍事オタクの興味を引いて止まない演習なのだろう。その眼中に完全に入っていないのだと悟った捲簾は・・・ふとと眼を合わせた。
そして、イヤ〜な笑い方をした。
「・・・ッ!」
白衣の裾が跳ね上げられ、驚愕した天蓬は慌てて振り返る。しかし白衣の中に潜り込んだ捲簾はしっかりと細腰を抱え込んでいた。
「ふざけないで下さいっ!」
ガンガンと後ろに蹴りを喰らわせる天蓬に、は同調した。
イヤ本当ふざけないで下さい大将。
ここにいるんですけど、それでもヤるつもりなんですか貴方。
批判の的となっている捲簾は、蹴られても平気でベルトを引き抜いた。
元々が打たれ強い大将である。しかも天蓬は窓際で膝を前方に出せないから蹴りの威力は殆ど無い。更に蹴るたびにブラブラ揺れる便所ゲタがダメージを拡散していた。
いつものピンヒールなら大将は
刺し殺されてたな、とは思った。
今日の天蓬はきちんと服を着、ゲタの正装(?)である。やはり部下の演習という事も有り、それなりに自分もきちんと襟を正す気持ちで来たのだろう
(半信半疑)
だが、それも乱されていく。
男にしては余りに細い腰にベルトで締めたズボンは、ベルトさえ取れば後はボタンを外すだけで膝まで落ちる。
「暴れんなよ・・・外から見えるぜ」
大将の嘘つき―――――――!!!
は心で絶叫したが、思わず天蓬は固まった。
この部屋は3Fだ。下から見ればすぐに窓辺の人間は見れる位置である。
シール貼ってなければだが。
いつもは白衣1枚で回廊をうろつく傾城元帥だが、それと今とはやっぱり違う。
ためらった1瞬の間に、捲簾は邪魔な白衣の裾を両手で握り・・・思いっきり引っ張った。
布の引き裂かれる高い音と共に天蓬の背がゾクリと竦む。
白衣のスリットは背中まで裂かれていた。
「・・・これ以上破られたくないだろ、天蓬」
低い声での脅しに、碧の瞳が揺れた。
外見を裏切る程強い彼が、端から敵わないと認めている捲簾に対してのみ見せる反応。
「・・・や・・・」
驚くほど頼りない声で、天蓬は抗う。
「やめ・・・」
眼鏡を奪われて僅かに捩った身体に、ズボンを掴んだ捲簾の腕が見せつけるように力を込める。
あからさまに天蓬が竦んだ。
捲簾の唇が笑いに歪む。
どうみても悪人面だ、とは思った。
「脚上げて、ズボン片足脱げ」
命令形のセリフに天蓬は柳眉をひそめた。
「捲簾、止めましょう、演習中・・・っ!」
痛みに顎を上げた天蓬が横目で窓の外を窺うのが、から見えた。
誰かが不審そうに見ていないか確かめる、その仕草が可哀想なほどである。
白い腰に赤くついた歯形を癒すように舐め、捲簾は酷く優しい口調で囁いた。
「脚上げて片足脱げよ・・・もう、言わないぜ?」
その声に天蓬は濃い睫を伏せる。
これに従わなければ、何されるか判らなかった。
そろそろと細い足が上がる。不安定な片足立ちで爪先まで服から抜き、ゆっくりと下ろした。
誉めるように捲簾の指がまだ乾いた窪みを軽く撫でる。
「・・・っ・・・」
堅い指の往復に、それだけで天蓬は熱い息を吐いた。
強気で傲慢で尊大で言葉でも行動でも相手を叩きのめす天蓬が、力の差を見せ付けられ、屈服し、強引に征服されて手も足も出せない『いつもと違う』シチュエーション。
相手が捲簾でなければ言葉で、媚態で、自分を上位に立てさせるのだが、捲簾だけには通じなかった。
それに、きっと捲簾には判っているのだ。本気で嫌がってない事が。
この『いつもと違う』力関係を楽しんでいる事が。
但し、今の天蓬にはちょっと快楽に溺れられない状況である。
「捲簾、ここは嫌です、ヤ・・・」
「脚開けよ」
「捲簾・・・」
ふるり、と震えた腰に舌を這わせつつ、捲簾は更に虐める事にした。
「そおだよなあ、誰かがこの部屋見たら一発でお前が喘いでるってバレるよなあ。お前只でさえ注目集めるし、元帥閣下ともあろう者が部下の演習中にわざわざ見えやすい部屋とって窓辺でハメられて喜んでるってのはマズイよなあ」
これが仕返しか、とは思った。
何て大掛かりかつ志の低い仕返しだろう。
片棒を担いだ事を心底悔やむの前で、天蓬は窓枠を握り締めた。
下では両軍が最後の作戦会議をしている。
中には彼の部下も、彼を付け狙っているヤツもいた。
「・・・やめて、下さい捲簾」
先程よりはしっかりした声で、天蓬は抗う。
「離れて・・・あっ!」
背筋を走る快感に、天蓬は顔を上げていられずに俯いた。
戻った理性が、又遠くに押し返される。
舌先が、秘められた孔を穿ったのだ。
1回ではない。執拗に、尖らせた舌先で何度も、両手で双丘を押し開きながら親指を引っ掛けて開かせ、そして昏い丁寧さで繰り返し、気が遠くなるほどこじ開ける。
「や・・・あっ、ああっ、あ、はあ・・・っ」
膝が震えて天蓬は窓枠を必死で掴む。額が小さな音をたてて窓ガラスに当たった振動が、やけにリアルにに伝わった。
淫乱な身体は更なる刺激を求めて、痙攣し始めた腿がゆっくり開く。
「・・・んっ」
唾液の糸を引いて舌が離れる。至近でヒクヒクと孔が口を開けるのに凶暴なほどの征服欲を感じながら、捲簾はそこに指を押し当てた。
「ああ・・・」
欲しがって孔がヒクつく。虚ろな碧の目がぼんやりと上がった。
「欲しい?」
わざと入り口を擦り上げて捲簾は笑う。返答になるかならないかの小さな喘ぎ声を鼻にかけて天蓬は返した。
「声は抑えろよ・・・外に聞こえるぜ」
碧の眼に戦慄に似た正気が走った。
直後、長い指が一気に後ろを犯す。
「・・・・・・ッ!!」
顔を伏せ、細い肩を震わせて、それでも天蓬は悲鳴を飲み込んだ。
「やりゃ出来んじゃん」
楽しそうに捲簾は笑うと、非情にも緊張に強張った狭い孔をぐぷりと抉った。
「・・・・・・!!」
白衣の襟を噛み締めて天蓬は更に俯く。
顔を外に向けられる度胸は無かった。
「ッ、・・・ク・・・ん、あ、あうッ!」
噛み締めた口元から濡れた白衣が離れる。
後ろを舌と指で愛撫しながら、捲簾のもう片方の手が前に回ったのだ。
張詰め、もう濡れ始めているソレをなぞられ、それに合わせて指が中でも動く。
「あ・・・ッ、捲、れ・・・や、やだ、やめ・・・っ、あッ、ああっ、嫌・・・ッ」
窓枠にしがみついて、身体を2つに折るようにして天蓬は首を振った。
理性と肉欲が彼の身体を真っ向から引き裂いている。
「もっと大きな声出せよ・・・」
伸び上がった捲簾が背筋に唇を押し当てて直接身体へ言い聞かせた。
「それじゃ外には聞こえないぜ?」
「・・・!!」
嫌だ、とかぶりを振りながら天蓬は蹲って窓から離れようともがく。
しかし捲簾がそれを許すはずも無い。
窓辺にいるとしても、それはちょっと見つかる位置になるので、元帥には申し訳ないがもっと窓の側にいて欲しい。
しかし、完全なデバガメである。しかも近距離。
「何?視線を感じる?」
捲簾は寝室専門の腰骨直撃な声で天蓬に囁いた。
で、視線がまっすぐ自分と合っているのは何の虐めでしょう大将。
「でもお前、いつもよりメチャクチャ興奮してない?」
「ひ・・・っ、い・・・やあッ!」
後ろを抉じ開ける指が2本に増える。掘り出すように指を曲げて内壁を引っかかれ、天蓬はガクガクと震えた。
逃げるように腰を前に突き出せば待っていたかのように大きな手が括れを弾きながら先端に指先を捩じ込み、それに耐えられずに腰を引くと1番イイ処を目掛けて根元まで指が割り入った。
「お・・・ねが・・・っ、も・・・、けんれ・・・っ」
息が荒くて言葉に成らない。快楽に身体が笑い出し、窓ガラスを鳴らして指が滑らかな表面をかきむしった。
流石に限界だと判る。従順な天蓬をこれ以上虐める訳にいかず、捲簾は立ち上がると背後から華奢な身体を抱き締めた。
窓辺での見せつけるようなキスシーンを、天蓬はもう拒まない。
やっと体温が伝わる位置に来た男を放さないように唇を合わせ、天蓬の方から舌を絡める。
「け・・・ん」
唇を合わせる角度を変えるたびに小さく呼ぶ。
「・・・っれ・・・」
細く白いしなやかな指が厚い軍服の袖を握る。堅く鍛え上げられた腕にしがみついて、その力強さに陶酔する。
「・・・何、可愛くなってんの?」
からかうような捲簾の声に腕を握っていた指を捲簾の細い顎に掛け、更に深い口付けをねだる。
口端を舐め上げ、離れた唇に、濡れて更に黒々と濃い睫毛が上がった。
熱に浮かされた碧の瞳は、しかし魂まで突き通す程に鋭い。
熱せられた刃のような熱く危険な瞳。
その瞳だけで唇を開かずに天蓬は意思を伝える。自分の瞳にそれだけの力があるとどうして知ったのだろうと、こんな状況ながらは思った。
なんて色で揺れる碧なんだろう。
本気でキスに熱中した捲簾に天蓬は翻弄される。広い胸にもたれて体重を預けながら、破られたスリットから乾いた手が入ってくるのにゾクリと背筋をしならせた。
受け入れるように無意識のまま、天蓬の上体が捲簾から離れた。
体重を支えられない為に、ふらりと腕が支えを求め・・・。
窓ガラスが意外なほど大きな音を立て、硬質な響きに天蓬はビクリと震えた。
叩きつけるようにガラスに置いた掌の向こう、部下らが突撃を開始している。
先を潰した演習用とはいえ、武器が日を反射して天蓬の眼を射った。
熱かった体が、一気に爪先まで冷えた。
「あ、嫌、ですッ・・・!捲簾!」
眼下の兵がこちらを見上げたようだった。
窓ガラスは酷い音をたてたのだ。気付かれても不思議ではない。とも思う。
防音機能など、あのシートには無い。
もがく天蓬を、腕2本だけで捲簾は固定した。
爪を立てて天蓬は抵抗したが、熱いものがもう押し当てられている。
もう捲簾は止まらないだろう。
「捲・・・せめて、ココ以外で・・・」
鋭くないモノに無理に狭い所を押し裂かれて、天蓬は喉で悲鳴を上げた。
その気になれば上手に捲簾を呑み込む部分が怯えて固く拒んでいる。
「くっ・・・床、でもイイ、ですからっ・・・場所を変えてっ・・・」
プライドの高い元帥にとって、それはきっと最大の譲歩なのだろう、とは思う。
しかし、捲簾は無言で腰を進めて彼に悲鳴を上げさせた。
無理な挿入に、窓枠に爪痕が残るのがからも見える。
止めに入ろうか、と一瞬だけの善意が身体を動かしかけ・・・我に返って寒くなった。
この状況で助けられた所で元帥が『ありがとうございますv』なんて普通に感謝するハズないだろう。
下士官達から揶揄15%圧倒15%羨望55%垂涎15%(
配分率の由来は不明確)位で観察されている(水浴びなどで、である。
考えすぎないで貰いたい)大将の『暴れん棒(下半身限定)』は更に膨張して凶器となって天蓬を貫いている。
先程までキツイ指淫を受けていた天蓬の窪みはくぷり、と表現するしかない音と共に雄を咥え込んでいく。
捲簾は一気には突き上げない。少し進めては止め、そしてまた少しづつ進む。
それが天蓬の身を案じて、ではないのだとは判った。
天蓬は力の全てを尽くして逃げようとしていた。必死で暴れて離れようとし、それでも捲簾に抱え込まれた腰は小揺るぎもしなかった。
逃げを打つ身体をのたうつ事も出来ずに、捲簾のペースで次第に深く犯され、天蓬の悲鳴は徐々に只の鳴き声に変わっていった。
「あ・・・・・・、あ、ふ・・・っ・・・ん、んっ」
天蓬の動きが逃げる為のものから、より深い快感を引き出すためのくねらせるような動きになっている。
それでも捲簾のペースは変わらず、無理矢理の挿入がいつのまにか焦らすような行為に受け取られていた。
場数が違う、とはこんな時にだが深く感心した。
「天蓬・・・」
普通のサイズでは有り得ないほど深く侵入された、苦しさが強烈な痺れとなって身体をヒクつかせる天蓬の耳元に、やっと捲簾は優しく囁いた。
「しっかり支えてろよ」
ずるり、と内部を埋めていた物が抜かれ、内壁を張り出した個所に掻き出される感覚に天蓬は悲鳴を上げた。
語尾が掠れ、抜き去る寸前にまで出て行った捲簾が一気に押し入るのに又叫ぶ。
窓の鳴る音と、肌と肌が打ち合う音と、濡れきった水音が同時にの鼓膜を犯した。
「ひっ、あっ、ああああああっ!!」
ガチャガチャと窓が鳴る。窓枠に腕を交差させ、顔を伏せていた天蓬は髪を引かれて顔を上げた。
「・・・・・・見えるだろ、自分のカオ」
捲簾の甘い声に、碧の焦点が兵達から窓に映る己に合う。
「イイ顔・・・・・・お前の、最高の顔だぜ、天蓬」
「あ、あうっ!」
刺し殺されるのではないか、という勢いで長大なものが反り返りながら入ってきた。
それに眉をひそめ、耐えられない涙をいくつも頬に滑らせながら、天蓬は己の表情を見ていた。
もこっそりと窓を覗く。
碧の眼が熱に浮かされていた。征服欲と破壊欲を掻き立てるかのような色。
閉じられない唇を赤い舌で舐めて、首を緩やかに振り、まぶたを閉じ・・・。
じっと見ていると酔いそうな位に、強烈に魅惑的な姿を窓越しに見ては熱が出そうだった。
大将は良く平気だ。
「イイだろ?」
平気な大将はやはり平気でオヤジ臭い感想を尋ねる。
「イ・・・・・・ヤです!」
涙声で天蓬は拗ねる。溺れる快感に攫われながら、こんな顔を窓の外に向けられた天蓬の精一杯の反抗だろう。
勿論そんな可愛らしい反抗で恐れ入る捲簾ではない。
むしろこの状況でまだ反抗しようとする元帥の気性に更に煽られるタイプだ、とは長年の付き合いで判った。
「あっそー。イヤなの。ふ―――――ん」
「あ、ああっ、あッ、嫌、ヤっ!」
腰同士が密着する程深くまで突き上げ、そのまま回すように翻弄すると天蓬は啜り泣いて暴れた。
「い・・・・・・や」
「何、まだ嫌なんだ。そっかー」
ぴっちりと雄を埋め、更に奥まで引きずり込む事を望んで蠢く後孔に捲簾は人差し指を添えた。
「イイって言ってみ、天蓬」
「え・・・・・・や、嘘っ・・・」
広がるだけ広がされ、伸びきった孔の縁を爪が引っかく。
ぐいっ、と爪の先が潜り込んだ。
ゾクリと天蓬は震える。何をされるか悟って、碧の眼が涙の膜を張ったまま見開かれた。
「やめ、嫌ですっ、捲簾っ、も、入らな・・・・・・!」
泣き叫ぶ、恐怖にというよりは既知の快楽に脅える天蓬を片手で押さえつけ、捲簾は更に関節を呑み込ませた。
「嫌じゃなくって、イイだろ?」
「捲簾!!」
悲鳴は滴るほど濡れそぼり、の耳にすら心地よく届く。
ましてそれが己の名である大将は止める所ではなかった。
「や・・・あ、ヒイッ!!」
ガチャン、ガチャンと窓が断続的に鳴った。
貫かれたまま、更に埋められた指が性感帯を抉ったらしい。
「あッ、あ、ああッ!!」
伸び上がるように着衣の乱れてもいない両手が窓に這い、白い喉が凄惨なのびやかさで曝け出された。
もう、外の事は元帥の頭から抜けているだろう、とは思った。
最奥をノックされながら断続的にイイ所を指先で弾かれ、白い姿がのたうつ。
「イイ?天蓬」
耳を噛むようにして、欲情しきった声で捲簾が囁くと、天蓬はガクガクと何度も頷いた。
「言ってみろよ、ホラ」
指が入った分キツクなった後ろを捲簾は無理に突き上げる。ゴリッという粘膜が骨に当たる感覚がして天蓬は叫び、捲簾は息を詰めた。
物凄い快楽が背筋を駆け上がる。もう何も考えられなくなって、天蓬は首を振った。
「イイ?」
「イ・・・イ」
促されるままに言葉を紡ぐ。いつも理知的な隙の無い表情が、今は欲に染まって上気している。
「ここも?」
指が同時に中を抉った。
「ッ!イ・・・イイッ!」
淫猥に天蓬は捲簾に腰を擦り付ける。カサカサに乾いた唇を舌で湿らせるのと同時に至近にあったガラス窓にも舌を這わせるその表情にとうとうは床にへたり込んだ。
「イイ・・・もっと、けんれ・・・・・・」
完全に天蓬が壊れた。『元帥』の鎧を脱ぎ去って、まとう空気すら淫らに変えて、有無を言わさせずに男の身体から精を絞れるだけ絞り尽くす、それだけの為の体になったかのように。
極上な後孔が更に信じられない程に蠢き、捲簾は喉の奥で低くうめいた。
流石にそろそろ降参して、捲簾は早急に指を引き抜き、砕けた天蓬の膝を後ろから抱え上げた。
「あ・・・・・・」
身体が宙に浮き、恐怖に天蓬がもがく。白い脚をM字に曲げて開かされ、結合が深くなった。
どこにも体重がかけられず、支えられず、逃げられず、細い腕が捲簾の首にすがりつく。
「すっげ・・・いい眺め・・・」
同感です大将。
は心で同意した。
これ、本当に外から丸見えだったら物凄いことになっていただろう。隠す所が全く無い体位である。
天蓬の溶けた瞳が窓に向いた。
外の兵士など、もう彼の思考に引っかからない。そのまま視線が捲簾に戻り・・・突然、思いっきり上体を前に倒した。
「うわあッ!!」
大の男が抱き上げられた上に落ちかけたのである。捲簾が見た目なんかより余程強靭でも流石に体勢を崩されて前に数歩つんのめった。
それで耐え切れるあたりが大将だ。
が、その衝撃を結合部で受けて、天蓬はしなやかに身体をそらせた。
捲簾の肩に爪を食い込ませながら、口端に浮かんだ笑みはどことなく満足気ですらあった。
「強引だなあ・・・・・・・・・お前」
敵わないな、と捲簾は吐息をつく。軽く2,3回腰を揺すり上げ体重で落とすと腕の中の身体が痙攣した。
強引にねだるくせに、強すぎる快楽に本気で辛そうに啜り泣く。
「余所見なんて・・・す、るから」
至近距離で捲簾を映した瞳は涙に濡れてはいても、決して曇っていない。
あでやかな微笑みは、庇われ、守られる対象のものではなかった。それは強い意志。
「僕を・・・抱いてるっていうのに、何に気を取られるって、ゆーんですか・・・」
くしゃり、と子供のように捲簾が笑った。
「悪ィv」
「ひ、ああああああッ!!」
悲鳴のような歓喜の声が、もうかなり痛んだ天蓬の喉を震わせて部屋に響く。
捲簾は両腕の筋肉を隆起させると、天蓬を上から己の凶器の上に跳ね落とした。
「お前もさ、鏡に対して嫉妬してんのかよ・・・」
違う、と正気だったらきっと元帥は答えただろうな。とはへたったまま思った。
お互い、凄い自信家である。
「あうッ、あああっっ!!」
きゅうきゅうと肉壁が捲簾を食い締める。犯している捲簾のほうがクラクラした。
2人の汗で捲簾の腕が滑る。それすら酷い快感として捕らえ、天蓬は愉悦に堕ちてゆく。
自分の思いのままに動かない体を大きく長いモノに思うまま刺し貫かれ、天蓬の身体の中で最も柔らかく、熱い部分を突き破る位にねじ込まれて。
もう声もマトモに出せず、涙だけをボロボロ流して天蓬は満足に出来ない息をついた。
「・・・・・・後ろだけでイケるよな?」
掠れた、余裕の無い声に天蓬が頷くのがに見える。
「ほら・・・っ、イっちまえっ!」
「あ、ああっ、イ・・・っ」
イク、と艶めかしく唇が動く。
吹き上げた白濁は窓にまで散り、ゆっくり、ゆっくりと流れ落ちていった。
タバコの箱から1本抜き去り、火をつけてゆっくり吸い込んでから捲簾は机を見渡した。
「、灰皿」
「・・・・・・右手後方にあるでしょう・・・」
情けない声に、捲簾はいたずらっ子のように笑った。
天真爛漫な笑顔ではあるが、
やった事は決してそんな形容詞では飾れない。
「大丈夫。こいつ後10分は絶対に目え覚まさないから」
「・・・腰が抜けました・・・」
半泣きでは窓辺から這って出てくる。
「お前まで抜けてどうするよ」
平然と煙草をふかす捲簾は全くいつも通りだ。ダメージ0である。
やっぱり闘神と比肩されるのは腰とタフさだ、とは思った。
「じゃ、俺天蓬部屋に送ってくるから。その間に証拠隠滅頼んだぜ」
「はあ?」
は愕然と上官の長身を見上げた。
捲簾はバサリと長いコートの裾を翻すと側の雑巾で取りあえず、本当に取りあえず窓の汚れを拭った。
「ここ、シール貼ったままじゃこいつにバレるだろ。剥がしといて」
「そんな簡単に・・・!!大体これ貼るのにどれだけ時間掛かったと思って・・・」
叫んだは元帥の存在を思い出して、どんどん声をひそめていった。
勿論何の力も無い反論となっている。
「・・・その分、役得だったろ」
ウインクを投げられ、は口を開いたまま黙り込んだ。
あれが役得というのだろうか。
元帥の眼が悪いから良かったものの、ヒヤヒヤし通しだった気がする。
どっちかというと、うなされそうだ。
そう反論しようとしたまさにその絶妙のタイミングで、捲簾はにやりと笑った。
「やらねえってんなら、こいつにがいたってばらすけど?」
思わずは元帥の至高な寝顔姿を横目で見てしまった。
「・・・普通、それって脅迫になりますかっ!?」
「なるだろお前の場合。黙って隠れてたんだから、きっと天蓬怒るぜ?」
普通、見られたと知ったら怒るんじゃなくて恥ずかしがるんじゃないだろうか。
デバガメした人間がそれをネタに脅迫するのは判るが、
どうして脅迫されなければいけないのだろうか。
はこの世の不条理について思いつめた。
だが、当の2人がそもそも不条理だからいけないのだ。
「さ、俺はもう行くけど」
破いた白衣を目立たないようにまとめ、捲簾はくったりした天蓬を抱え上げた。
「お前の事は言わないでおくから。サンキュな。気が済んだ」
「・・・大将・・・」
捲簾の気が済んでも、きっと今度は天蓬が黙ってはいないだろう。
の眼差しは出陣する大将を見送る時より悲愴だった。
「ここはきちんとやっておきますから・・・あの、明日の執務は代行しておきます・・・」
「2日経っても出てこなかったら救護班呼んでくれ」
冗談性皆無な発言をして、捲簾はもう1度ウインクを投げると部屋を出て行く。
――――――大将がお一人で責任を被り、黙っていてくれるというのだ。部屋くらい綺麗にしなくてどうする!!
抜けた腰を騙しては窓ガラスに取り掛かった。
もさすがに見ていた光景に混乱していたのだろう。
そもそも捲簾が勝手にムカついて、自分でやらずにに頼んだからいけないのだ。
責任は元々捲簾1人のものである。
『自分1人を犠牲にする優しい上司』の為に働くは、しばらくそれに気付かなかった。
気付かないのは幸いである。
下では上官たちに一顧だにされなかった佐官以下西方軍の面々が、いじらしく奮闘していた。
これもまた彼らの軍の日常である。